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行政と障がい者の働く場を考えたら?
MNHは何がしたいのか? vol.8行政と障がい者の働く場を考えたら?
※本連載はMNH菅会長のインタビューをもとにお届けしています。
行政の話が出たが、さらに付け加えておきたいことがある。
「我々の仕事は、行政ととても親和性がある」と菅会長はいう。
MNHは、ソーシャルビジネスといわれるように、設立の目的が「社会課題の解決」だ。一般企業が主に利益の最大化を目的とするのとは対照的に、目指すものが全く違う。
MNHはお伝えしてきたように、特に社会的弱者の働く場づくりに励んでいる。
例えば、ものづくりの工程の一部を福祉作業所の障がい者の人に手伝ってもらっている。また、本来働く能力にあふれている引きこもりの青年に、MNHが工場をつくって、やりがいを見つけてもらいながら、仕事をしてもらっている。
こういった社会課題の解決は、本来どこが生業としているかというと、そう、行政だ。
ここで、障がい者の就労支援に絞って考えてみる。
現時点で公の機能である行政は、福祉作業所のような働く機会や場所を提供することなどにより(*)、障害福祉サービスの大枠を整備してきた。しかし現場では、労働環境の悪さ、やる気不足、工賃の安さなど、課題が多いのは周知のことだ。
社会に合わせて弱者の働く形を整えていくというのは、王道ではあるが、なかなか現場の細かい課題が拭えないのが現状だ。しかし公費のなかでは、やれることに限界が生じるのは、ある意味致し方ないと考えている。
そこで、ソーシャルビジネスを生業とするMNHとして、なにかできないかといつも考えている。
「働く場」の考え方
MNHの特徴を一言でいうならば、「この若者を活かすにはどうしたらいいだろう?」という視点から働く場を考えているところだ。そのため、MNHは本人のやる気を引き出すことに着目している。
例えば、福祉作業所の仕事の発注の段階では、大きなロットの仕事は大規模な作業所に流れていく。よって小規模な作業所は仕事が取りにくくなる。小さな作業所では、職員が作業をさせたいがために請け負ってしまった1円にも満たない仕事を、仕方なく行うこともままある。
こんな状況では、彼らのやる気もすらも起こらないのが当然だ。
この状況を改善するために、MNHが間にたってロットの大きな仕事を請け、複数の作業所にその作業所の能力に合わせた作業の割り振りを行ってきた。
また、工賃の低さに関しては、作業を発注する側の問題も大きい。
そもそも安い仕事を、中抜き業者が複数入ることにより、現場を考えない価格設定にしてしまっている。
「障がい者の人の労力が、安く買い叩かれているのは、許せない」と菅会長も断言するように、MNHでは労働に見合った適正な価格を設定するのをポリシーとしている。そのため現在、相場の3倍以上の賃金で障がい者に作業をお願いしている。
もちろん、クオリティ面や進行管理など、いまだ課題もある。
しかし現場からは「MNHの仕事のほうがいい」という声を実際いただいており、閉塞的な現場に少なからず風穴を開けている実感はある。このようなやる気が、彼らの生きがいにつながり、現場の収益化にもつながれば、我々としてもこの上ない喜びである。
一方で、「MNHが目指すのは、1カ所の福祉作業所が上手くいく形ではなく、日本中の働く場がない社会的弱者たちがやりがいをもって働いている姿である」と会長はいう。つまり、この弱者を活かす仕組みをもっと広げたいと考えている。
繰り返すが、このようにMNHの取り組んでいることは、行政と重なる面も多い。
多くの人が携わって弱者の働く場づくりをすすめていくことは、障害福祉サービスの底上げにもつながり、社会全体にとってもメリットが大きいことだと思っている。
(*)現在、行政の就労支援には、一般企業への就職を希望する障害者の能力や知識習得のための「就労移行支援」、就労移行支援や就労継続支援を利用して一般企業などに就職した方へ向けてサポートを行う「就労定着支援」、現在就労が困難な状況の方に対して就労や生産活動の機会を提供する「就労継続支援(A型・B型)」がある